「いま一番の困りごとは何ですか?」の質問から、全人的苦痛(トータルペイン)を考える

ご本人の困りごとを直接質問する

医療者から見て問題だと思うことと

実際にご本人が困っていることとは

しばしば異なります。

 

「いま一番の困りごとは何ですか?」

直接質問し、その解決策を示したり 一緒に考えたりすること

またご本人の困りごとに関心を持つこと自体が

ご本人の不安感を軽減できる可能性があります。

 

<Mさん(96歳)の困りごとの変化>

  1. 初診時(退院直後):「困りごとは食べ物。量でなくて質」
  2. 食べられるようになると:「耳が聞こえなくて、会話できないのが困る」
  3. 最近は(冗談めかして):「弟には、私より先に逝かないでね、と言っているの」

 

初診時、Mさんは入院中のお粥食を好まれず、

入院前と同様に形のある食事を切望していました。

また排泄に医療的ケア(留置カテーテルや浣腸等)が必要な状態でした。

 

元通りの食事ができるようになり、排泄の医療的ケアも不要になると、

次は他の高齢者との会話を楽しめないのが、

Mさんの新しい困りごととなりました。

身体的な困りごとが解決し、心理的な困りごとが前景に出たのです。

そして死を意識した発言もみられるようになりました。

 

実はこの「困りごと」とは、癌の緩和ケアでよく使われる

全人的苦痛(トータルペイン)に共通しています。

 

全人的苦痛(トータルペイン)を考える

緩和ケアにおいて、痛みには以下の4つの側面があるとされます。

  1. 身体的苦痛
  2. 心理的苦痛
  3. 社会的苦痛
  4. スピリチュアルペイン

ただし「あなたの社会的苦痛は何ですか?」と質問しても

多くの場合、期待する返答は得られません。

 

「いま一番の困りごとは何ですか?」の質問は

ご本人がご自身の内なる困りごと(=苦痛)に目を向け、

その中でご本人が優先順位を整理するのに有用と思われます。

(院長 神部)

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