「最愛の家族を自宅で看取る」決断をして
無我夢中で様々なケアを尽くしたご家族であっても
振り返って「もっと優しくしてあげれば」
「もっとできたことが あったのでは」
と思いを巡らせることも少なくありません。
命のともしびが小さくなりゆく過程で
ご本人が「美味しい」笑顔を見せてくれたり
ご家族のケアで「気持ちいい」表情をしてくれたり
少しでも小さな幸せを積み上げることができたなら
ご家族の無力感を軽減し
離別の悲しみから立ち上がる助けになるでしょう。
「赤鬼がどこまでも追いかけてきて おっかなかった」
とおっしゃったSさん。
私が「それは おっかなかったですね。
鬼退治には豆まきかしら?」と提案したところ
その晩 Sさんのご家族は季節外れの豆まきをしたそうです。
その後は鬼も現れず Sさんも怖い思いをせずに過ごせた、と。
またKさんは それまで入浴を拒否していたけれど
いよいよ血圧が低下した朝「お風呂に入りたい」と
おっしゃったそうです。
診察の時にその話をうかがい「それでは足浴をしましょう」。
看護師と一緒に お孫さんが熱心に足を洗ってくれました。
翌日旅立たれたKさん。
あの時の「あー、気持ちいい」の表情は何よりの孝行だったでしょう。
症状緩和のために医学的に何ができるか?と同時に
ご本人とご家族の幸せ感のために そして
ご家族のグリーフケアのために いま何ができるか?
を常に意識したいと思っています。(院長 神部)